FUJITSU
Worldwide|サイトマップ
THE POSSIBILITIES ARE INFINITE
Japan
元のページへ戻る本件に関するお問い合わせ先
[ PRESS RELEASE ] (技術)
2003-0082
2003年5月1日
株式会社富士通研究所
- 世界最高性能のドレイン効率35% -

IMT-2000基地局システム向け
窒化ガリウムHEMT増幅器の開発に成功

株式会社富士通研究所(*1)は、第3世代移動通信(IMT-2000)基地局向けに、システム電源に直結可能な45ボルトで、100ワットの高出力連続動作が可能な窒化ガリウム高電子移動度トランジスタ(HEMT)(*2)増幅器を開発しました。当社独自の歪補償回路と組み合わせ、世界最高性能のドレイン効率35%を、IMT-2000規格を満足して達成できました。

今回開発した窒化ガリウムHEMT増幅器を用いることで、更なる基地局システムの小型化と低消費電力化が可能となります。


今回開発した窒化ガリウムHEMT増幅器

【開発の背景】

移動通信における高速データ伝送ニーズの高まりに伴い、本格商用サービスが始まっている第3世代移動体通信システム(IMT-2000)では、基地局システムの設置の容易さと維持コストの低減をめざして、システムの小型化と低消費電力化が求められています。

現在の基地局システムでは、システムに用いられる高出力トランジスタの動作電圧が基地局のシステム電源電圧に比べて低いため、電源電圧変換回路が用いられています。この電源電圧変換回路が不要になれば、基地局の小型化と低消費電力化が可能となります。このことから、システム電源に直結できる高い電圧でも動作するトランジスタが求められていました。

【課題】

窒化ガリウムは、シリコンやガリウム砒素など従来の半導体材料に比べ、電圧による破壊に強いという特長があります。一方、窒化ガリウムをHEMT構造として用いることで、従来の他の材料のトランジスタに比べ、高出力で高効率な動作が期待できます。窒化ガリウムHEMTによって、高電圧動作が可能で、高出力・高効率の増幅器が可能であると期待されていました。

しかし、実際に窒化ガリウムをHEMT構造にして高電圧動作させてみると、ゲート電極からのリーク電流が予想以上に大きいことと、高周波動作をさせたときにドレイン電流が低下してしまうという課題があり、高電圧動作トランジスタとしての十分な特性を得ることができませんでした。

【開発した技術】

当社は、上記課題を解決するためには、窒化ガリウムHEMTの表面構造を制御することが重要であることに着目し、デバイスシミレーションと実験とによって、HEMT構造の表面部分にn型の窒化ガリウム層を用いることで特性が大幅に改善できることを見出しました。

以下に、表面にn型の窒化ガリウム層を用いた最適化の効果を示します。

  1. 高電圧でのトランジスタ動作を実現

    HEMT構造の表面部分にn型の窒化ガリウム層を用いることで、ゲート電極付近の電界集中が大幅に低減できました(図1)。電界集中の低減によりゲート電極からのリーク電流が大幅に低減し、基地局システムで利用するのに十分な高電圧でのトランジスタ動作が確認できました(図2)。

  2. 高周波動作での電流低下現象を除去

    HEMT構造の表面部分にn型の窒化ガリウム層を用いたことで、高周波動作時に問題となっていた電流低下現象がなくなりました(図3)。トランジスタ表面の欠陥に電子が捕獲される効果がn型の窒化ガリウムでは小さいためです。窒化ガリウムHEMTが本来持つ高出力・高効率のトランジスタ動作が実現できました。

今回開発した窒化ガリウムHEMTを用いて高出力増幅器を作製し、直流電源電圧45ボルトで、IMT-2000周波数の2ギガヘルツ帯において100ワットの高出力連続動作に成功しました。この結果は、基地局システム電源への直接利用に道を開くものです。

さらに、作製した窒化ガリウムHEMT増幅器と、当社独自のデジタルプリディストーション(Digital Pre-Distortion: DPD)方式(*3)の歪補償回路(2002年9月5日発表: http://pr.fujitsu.com/jp/news/2002/09/5.html)とを組み合わせ、IMT-2000基地局用増幅器としての動作検証を実施しました。

消費電力が最小となる条件で評価したところ、IMT-2000スペクトラムエミッション規格(*4)のもとで、窒化ガリウムHEMTに入力された直流電力が高周波信号電力へ変換される割合を表すドレイン効率が35%と、従来比で1.5倍の世界最高性能を得ることができました。電力の高効率の変換が可能となることで、基地局システムの省電力化が図れるだけではなく、放熱機構の簡素化によるさらなる小型化が可能となります。

今後は、高電圧動作が可能な高出力・高効率のトランジスタとしての一層の特性向上と基地局システムでの実用化開発を進め、次世代通信システムの普及に貢献してまいります。

図1
図1
HEMT構造の表面部分にn型の窒化ガリウム層を用いることで、ゲート付近の電界集中が大幅に軽減しました。n型の窒化ガリウムが持つ電気的な特性(バンド構造)による効果です。


図2
図2
表面部分にn型の窒化ガリウム層を用いたHEMTのトランジスタ動作。基地局で求められる高電圧(〜100 V)まで良好な特性が得られています。


図3
図3
表面部分にn型の窒化ガリウム層を用いたことにより、高周波(RF)動作時の電流低下現象(左)がなくなっています(右)。


以 上

(*1)株式会社富士通研究所
社長:藤崎道雄、本社:川崎市
(*2)高電子移動度トランジスタ(HEMT)
HEMT(High Electron Mobility Transistor)は、バンドギャップの異なる半導体材料との接合界面に生じる電子層が通常の半導体内に比べて高速で動作することを利用した電界効果型トランジスタです。1980年に富士通が世界に先駆けて開発し、現在、衛星放送用受信機や携帯電話機、GPSを利用したナビゲーションシステム、広帯域無線アクセスシステムなど、IT社会を支える基盤技術として広く使用されています。
(*3)デジタルプリディストーション(Digital Pre-Distortion: DPD)方式
基地局に使用する送信用高出力増幅器を低消費電力化するための技術で、増幅器の発生する歪の逆特性をディジタル信号処理によりあらかじめ加えておくことで歪補償を行うものです。
(*4)IMT-2000スペクトラムエミッション規格
送信しようとするチャネル以外の周波数に放射される不要波に関する規格で、送信用増幅器の歪が少ないほど不要波が少なくなります。
元のページへ戻る ページの先頭へ

関連リンク

プレスリリースに記載された製品の価格、仕様、サービス内容、お問い合わせ先などは、発表日現在のものです。その後予告なしに変更されることがあります。あらかじめご了承ください。ご不明な場合は、富士通お客様総合センターにお問い合わせください。


All Right Reserved, Copyright (C) FUJITSU