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[ PRESS RELEASE ](技術)
2003-0066
2003年4月14日
株式会社富士通研究所

世界最高性能110ギガヘルツの超広帯域アナログ増幅器を開発

株式会社富士通研究所(*1)は、世界最高性能である帯域幅110ギガヘルツの超広帯域アナログ増幅器を、高性能のインジウム・アルミニウム・砒素/インジウム・ガリウム・砒素/インジウム燐(InAlAs/InGaAs/InP)HEMT(*2)と、反転型マイクロストリップ線路(*3)(IMSL: Inverted Micro Strip Line)とを用い、開発しました。
反転型マイクロストリップ線路を用いたことで、チップ面積は約1/2になり、また実装も大幅に容易になるため、製造コストを下げる効果も確認できました。

今回開発した技術は、80ギガビット毎秒以上となる次々世代通信システムに向けて開発したもので、超高速・大容量データ光通信システムやミリ波UWB(Ultra Wide Band:超広帯域)通信システム(*4)での利用が期待できます。

なお本技術は、2002 GaAs IC Symposium (http://www.gaasic.org/)において優秀論文賞(Best Paper Award)を受賞しています。

今回開発したアナログ増幅器

【開発の背景】

現在、テラビット級の超高速・大容量データ光通信システムに向け、WDM(Wavelength Division Multiple:波長分割多重)技術(*5)や 40ギガビット毎秒を超える時分割多重技術の開発が進められています。またワイヤレス通信分野でも、データ伝送レートを上げるために、より高い周波数を使った通信システムの開発、たとえばミリ波UWB通信システムの研究開発がおこなわれています。

これらの用途では、デジタル信号を直接増幅することが求められており、低い周波数から非常に高い周波数まで、広い帯域で一定して動作する広帯域のアナログ増幅器が必要となります。

【課題】

従来、高周波用の広帯域アナログ増幅器としては、CPW(Coplanar Waveguide:コプレナ導波路)(*6)型の分布型増幅器(*7)が利用されてきました。しかしCPW型では平面的な構造を用いているため、伝送路の両側にある接地導体をつなぐ構造(エア・ブリッジ)が必要です(図1)。このエアブリッジが高周波に対しては抵抗として働くため配線損失が生じ、次々世代の通信システムで必要となる80GHz以上の広い帯域で一定の増幅特性を持つことができませんでした。また平面的な構造の中に複数の接地導体をとらなければならないため、チップサイズを小さくすることには限界がありました。

一方、高周波デバイスでは、チップを実装基板に直接実装するフリップチップ(*8)MMIC(*9)にすることが有効です。しかし、CPW型では実装基板とチップとの間の距離によって容量が変化するなどの近接効果が生まれ、高精度の高さ調整が必要であるとともに特性の評価を実装後でなければできないという製造上の課題がありました。

【開発した技術】

今回開発した世界最高性能の110GHz超広帯域アナログ増幅器では以下の技術を用いています。

  1. 高性能HEMT技術
    高電子移動度のInAlAs/InGaAs/InP ヘテロ構造の上に、ゲート長0.13マイクロメートルの高性能トランジスタInAlAs/InGaAs/InP HEMTを作製する技術を用いて、110GHz以上まで対応できる増幅器を実現しています。利用したInAlAs/InGaAs/InP HEMTの性能を表す遮断周波数(*10)は160ギガヘルツであり、80ギガヘルツ以上での増幅が可能となっています。
  2. 反転型マイクロストリップ線路技術
    InP系の分布型増幅器としては初めて、反転型マイクロストリップ線路(IMSL)構造を用いました(図2)。この構造ではチップ表面全体が接地導体となるために、CPW型で問題となっていたエアブリッジによる配線損失がなく、低周波から80ギガヘルツ以上の高周波まで、損失の小さなきわめてフラットな特性を得る技術となっています。(図3)。

以上の技術を用いることで、分布型増幅器としては世界最高性能の110ギガヘルツという超広帯域アナログ増幅器を実現することができました(図4)。110ギガヘルツは測定器の動作限界であり、設計上では125ギガヘルツまで増幅が可能であるという結果を得ています。

また反転型マイクロストリップ線路を用いたことによって、製造コストを下げるために有効な以下の効果も確認できました。

  • 伝送線路のデザインにおいて、接地電極のサイズを考慮する必要がなくなり、チップサイズをCWP型の約1/2にすることが可能となりました。
  • 反転型マイクロストリップ線路では、回路が接地導体で遮蔽されるため、フリップチップMMIC実装時の実装基板とチップとの間の寄生容量の制御が不要となりました(図5)。その結果、フリップチップMMIC実装時の高さ調整が不要となり、実装工程を簡略化できるようになりました。
  • ウェハ状態での測定値とフリップチップ実装時の測定値との差がほとんどなくなりました(図6)。ウェハ状態での高周波試験が可能となることで、開発・製造におけるフィードバックが容易になり、全体として工程の短縮が期待できます。

今後も広帯域アナログ増幅器としての特性の一層の向上に取り組み、次世代通信システムの開発を加速してまいります。

図1
図2
図3
図4
図5
図6

【用語説明】

*1)株式会社富士通研究所
社長:藤崎道雄、本社:川崎
*2)InAlAs/InGaAs/InP HEMT
HEMT(High Electron Mobility Transistor)は、バンドギャップの異なる半導体材料との接合界面に生じる電子層が通常の半導体内に比べて高速で動作することを利用した電界効果型トランジスタです。1980年に富士通が世界に先駆けて開発し、現在、衛星放送用受信機や携帯電話機、GPSを利用したナビゲーションシステム、広帯域無線アクセスシステムなど、IT社会を支える基盤技術として広く使用されています。HEMTの初期にはAlGaAsとGaAsが半導体として用いられていました。トランジスタの微細化が進むにつれて、より高性能を実現するために、富士通では電子速度のより速いInGaAsと、より多くの電子供給を実現できるInAlAsとによるヘテロ(異種の材料による)接合を用いました。
*3)マイクロストリップ線路
誘電体基板の一面に信号導体配線と接地導体が設けられた配線構造のことです。信号配線が接地導体にはさまれた構造になっており、誘電体の一面のみを使って信号伝送ができるため、回路の特性評価や他の回路との接続が容易になります。
*4)UWB(Ultra Wide Band:超広帯域)通信システム
GHzオーダの広い周波数帯域を利用し数百Mbps以上の大容量/高速伝送をめざしたワイヤレス通信システムです。平均電力レベルが1mW以下で既存の通信システムとの干渉が少ないのが特徴となります。
*5)WDM(Wavelength Division Multiple:波長分割多重)技術
搬送波の波長を変えて、一つの光ファイバに複数の光信号を多重する方式。波長の異なる光ビームは互いに干渉しないという性質を利用しているため、多重する光の数を増やすことによって光ファイバ上の情報伝送量を飛躍的に増大させることができます。
*6)CPW(Coplanar Waveguide:コプレナ導波路)
誘電体基板の一面に信号導体配線と接地導体が設けられた配線構造のことです。信号配線が接地導体にはさまれた構造になっており、誘電体の一面のみを使って信号伝送ができるため、回路の特性評価や他の回路との接続が容易になります。
*7)分布型増幅器
複数のトランジスタがある一定の間隔で並列に接続された構造となっています。帯域は入力の伝送線路とトランジスタの入力容量により形成されるフィルタで決定され、広帯域化に適しています。また、分配された入力信号それぞれを、対応するトランジスタで増幅し、出力で合成することによって高出力を得るという特徴も合わせ持っています。
*8)フリップチップ
チップの回路面に接続用金属を多数並べ、回路面を下に向けて実装基板に押し付ける形態で電気的に接続する実装技術のことです。
*9)MMIC(Microwave Monolithic Integrated Circuit)
トランジスタの能動素子のみならず、抵抗・キャパシタ・インダクタ・伝送線路などの受動素子も集積回路技術を用いて、トランジスタと同一の半導体基板上に作り込んだマイクロ波・ミリ波で用いられる集積回路のことです。
*10)遮断周波数
トランジスタの電流利得に関する増幅動作の周波数上限を表しています。通常は、周波数に逆比例して電流利得が減少し、電流利得が1(出力電流と入力電流の比が1)となる周波数の値をいい、遮断周波数の大きい素子がより高い周波数で動作することを示しています。

以 上

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