[ PRESS RELEASE ] |
2002-0242
平成14年10月17日
株式会社富士通研究所 |
No.179 |
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既設光ファイバ伝送路を用いた 1波当り40ギガビット/秒のテラビット波長多重伝送を実現
株式会社富士通研究所(社長:藤崎道雄、本社:川崎市)は、既存ファイバとして世界中で最も普及している光ファイバケーブル(*1)を用いて、1波当り40ギガビット/秒でのデータ伝送を可能とする技術を開発し、この光信号を44波多重して総容量1.76テラビット/秒の波長多重信号を生成し、600 kmの伝送実験に成功いたしました。
この技術を用いると、すでに敷設された光ファイバケーブルを新規光ファイバケーブルに交換することなく、テラビット級の波長多重伝送システムが低コストで実現可能となります。
なお、本件の詳細技術は、9月8日からコペンハーゲン(デンマーク)で開催されたECOC2002 (第28回欧州光通信国際会議: European Conference on Optical Communication)にて発表いたしました。
【開発の背景】
近年の高速インターネットやブロードバンドサービスによる通信需要の増大に伴い、将来へ向けて光伝送システムの長距離・大容量化が強く期待されており、当社では次世代光伝送システムとして、チャネル当たり伝送速度40ギガビット/秒の波長多重(WDM)光伝送システムの研究開発を進めています。
しかし、これまで提案されている40ギガビット/秒の次世代WDM光伝送システムは、光伝搬速度の波長依存性や偏光依存性が小さいために、伝送される光信号の波形劣化が小さい、最新の光ファイバを利用したものがほとんどで、既に敷設され、世界中で最も普及している、比較的古い光ファイバを用いるものはありませんでした。
既設ファイバを用いて40ギガビット/秒WDM光伝送システムを実現するためには、
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- (1)
- 光信号強度と光雑音との比率(光S/N比)を改善する技術
- (2)
- 光ファイバケーブル敷設環境下での温度変化によって、光ファイバの波長分散値が変動することによる光波形劣化の補償技術(波長分散補償)
- (3)
- 光ファイバのコア形状がわずかに楕円になっていることで生じる光波形劣化の補償技術(偏波モード分散(PMD)補償(*2))
という3つの技術課題を同時に解決する必要がありました。
【開発した技術】
今回、上記の3つの課題を解決するため、以下の要素技術を開発しました。
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- (1)
- 3段構成(分布ラマン増幅器(*3)、集中ラマン増幅器、エルビウムドープファイバ増幅器)のハイブリッド光中継ノード(図1)を構成することにより、光S/N比を約1.8倍向上させました。
- (2)
- 受信特性をモニタリングしながら、VIPA可変分散補償器(図2、*4)の分散補償量が常に最適値になるように自動的にフィードバック制御する技術を開発しました。
- (3)
- 受信光信号の偏光度をモニタリングしながら、高速偏波制御器と可変偏波モード間遅延回路から構成されるPMD補償器(図3)を最適フィードバック制御することにより、伝送速度、伝送符号、伝送路の波長分散値に依存せず、PMDだけを自動的に補償する技術を開発しました。
上記(1)〜(3)の技術を全て組み合わせた実験システムを世界で初めて構築し、平均PMD値が8ピコ秒のHigh-PMD模擬伝送路を用いた伝送実験を行いました(図4)。その結果、40ギガビット/秒の光信号を44波多重した総容量1.76テラビット/秒のWDM信号を600 km伝送させることに成功し、開発した制御システムが安定に動作することを確認しました。
今回開発した3つの要素技術は互いに独立して機能することが可能なため、伝送速度、伝送容量、伝送距離、伝送路ファイバ種類などのシステムに応じて組み合わせることができ、より柔軟なシステム設計を可能にします。
今後は、40ギガビット/秒システムの市場動向に合わせて製品化する予定です。
【用語解説または注釈】
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- *1 光ファイバケーブル
- 光通信用に世界中で最も普及している光ファイバケーブルは、零分散波長(光の伝搬速度の波長依存性が零になり、光伝送波形の劣化が最も小さい波長)が1.3ミクロン波長帯にあるシングルモードファイバ(SMF)です。しかし、この光ファイバを現在光通信で利用されている1.55ミクロン波長帯で使用すると、光損失は最小ですが、波長分散値は非常に大きく、高速伝送が難しくなります。そのため10ギガビット/秒以上では波長分散補償技術の適用が必要となります。
- *2 偏波モード分散 (PMD: Polarization-Mode Dispersion)
- 光ファイバのコア形状が僅かに楕円化しているために、二つの直交偏波モード成分間に伝搬時間差を生じ、波形劣化を引き起こす現象のことです。特に海外の古い既設伝送路ファイバにおいてPMD値が大きいことが知られており、高速伝送になるほど、深刻な伝送距離制限要因となります。さらにPMDは、温度・ストレス等の伝送路環境変化によって経時的に変動するとともに、ファイバ長手方向のランダムモード結合により波長依存性かつ統計的性質をもちます。
- *3 ラマン増幅器
- 光ファイバがもつ非線形効果であるラマン散乱効果を利用した光増幅器のことです。光ファイバ中に高いパワーの励起光を入射させることにより、励起光波長から約100ナノメートル離れた帯域にある信号光を増幅することが可能です。一般に、増幅媒体が伝送路光ファイバの場合を分布ラマン増幅、送受信光端局や光中継器内にある光ファイバの場合を集中ラマン増幅器と呼びます。
- *4 VIPA (Virtually Imaged Phased Array)可変分散補償器
- 薄板の両面に反射膜をコーティングした波長分散素子(VIPA板)および3次元反射ミラーにより構成されているバルク型光デバイス。200 ギガヘルツ間隔で繰り返される透過特性と群遅延特性をもち、3次元ミラーを平行移動させることにより、40 ギガビット/秒 NRZ信号に対し,C-band全体(1530- 1560 ナノメートル)にわたり可変分散補償範囲±800 ピコ秒/ナノメートルが得られています。
以 上
【添付資料】
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- 図1. 低雑音光中継ノード
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- 図2. VIPA可変分散補償器
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- 図3. 自動PMD補償器
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- 図4. 40ギガビット/秒x44波 High-PMD SMF 600km伝送実験
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