[ PRESS RELEASE ] |
2002-0201
平成14年8月22日
株式会社富士通研究所 |
No.161
|
|
世界初!電圧60V、1ミリ秒で動作可能な
櫛歯電極型の80チャネル光スイッチ素子を開発
株式会社富士通研究所(社長:藤崎道雄、本社:川崎市)は、静電力による高い駆動能力を発生する櫛歯電極型MEMSミラー(*1)を用い、80チャネル分の光信号の同時切替えが可能な光スイッチ素子の開発に世界で初めて成功いたしました。
今回開発した技術を用いると、駆動電圧60V(従来比約1/3)、動作速度1ミリ秒(従来比約1/10)で、80チャネル分の光信号をそのまま同時に切り換えることが可能になり、光波長多重通信(WDM)のさらなる効率化が可能になると期待されます。
なお、本技術の詳細は、8月20日からスイス・ルガーノで開催されている光MEMS国際会議(Optical MEMS 2002)にて発表いたしました。
【開発の背景】
ブロードバンド・インターネットが普及しはじめ、光ファイバを用いたネットワークの利用が拡大しつつあります。しかし、データ量の変動に応じて、光ファイバネットワークを切り換えたり、光ファイバネットワークの装置故障などが発生した場合に、故障した光ファイバ網を流れる光信号を別の光ファイバ網に切り換えたりする必要があります。従来は、光信号を電気信号に変換し、電気で信号を切り換えた後、再度電気信号から光信号に戻すという複雑な処理が必要でした。そこで、データを光信号のまま効率的に切り換えることのできる光クロスコネクトスイッチ(*2)の開発が世界的に行われています。
光クロスコネクトスイッチとしては、鏡の方向を変えることで信号光が反射する方向を制御し、立体的に光信号の切り換えを実現するMEMSミラーを用いた光スイッチが有望とされています。しかし従来報告されているMEMSミラーは平行平板電極を用いて静電力を発生させていたため、駆動電圧が200V程度と高い上、切り換え速度も10ミリ秒程度と実用に十分なものではありませんでした。
そこで当社は、平行平板電極型に比べて強い静電駆動力を得られる櫛歯電極型MEMSミラーに着眼しました。しかし、櫛歯電極型MEMSミラーは、微細な櫛歯電極が噛み合わさって動作する構造のため、櫛歯の接触による動作不良が発生しやすく、光の反射方向を3次元的に制御する(2軸偏向動作)のも難しいという問題がありました。
【開発した技術】
今回開発したのは、櫛歯電極間に発生する静電力によって方向を制御できるMEMSミラーと、そのMEMSミラーの櫛歯電極が接触して動作不良になるのを防ぐための、V字型トーションバー(*3)を用いたミラー全体を支える構造(図1、2)です。ひとつの基板上に80チャンネル分のMEMSミラーを組み込んだミラーチップを2つ搭載し、駆動電圧60V、ミラー可動範囲±5度、2方向(光ビーム偏向角±10度、2方向)、応答速度1ミリ秒という世界最高の性能で動作します。
図1 光スイッチ素子
|
図2 ミラー部拡大図(裏面)
|
(画像をクリックすると拡大表示されます) |
その特長は、以下の通りです。
- 高い駆動能力が得られる櫛歯電極構造の実現
SOI基板(*4)を用いたシリコンの高精度立体加工技術の開発により、高さ100ミクロン、幅5ミクロンという高アスペクト比で微細な櫛歯電極構造を実現しました(図3)。
- 櫛歯電極駆動時の「櫛歯接触」を解決する「V字型」トーションバー
櫛歯の接触につながるミラーの横方向変位を防ぐため、独自の「V字型」トーションバー構造を考案しました(図3)。この構造は建築物の筋交いのような働きがあり、必要な動作である回転方向の特性には影響を与えず、問題となる横方向変位のみを抑えることができます。 |
図3 櫛歯電極構造とV字型トーションバー
(画像をクリックすると拡大表示されます) |
- 電極基板上へのフリップチップ実装
電極基板とミラーチップとを隙間をもたせて実装することで、ミラーが回転する際の動作スペースの確保と、80チャンネルMEMS光スイッチ素子の動作に必要な640ヶ所の櫛歯電極の独立駆動を可能としました。
この技術によって、光ファイバネットワークの大容量化につながる高速・低駆動電圧の光クロスコネクトスイッチの実現が期待できます。
【用語解説または注釈】
- *1 MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)ミラー
-
MEMSとは、微細な電気回路と機械的構造を一体化したもので、マイクロマシンともいわれます。MEMSミラーは、小さな鏡の傾きを制御することで、光の方向を変えることが可能な微細構造物です。
- *2 光クロスコネクトスイッチ
-
多数の光信号の経路を光信号のままで任意に切り換えるスイッチです。電気信号への変換が不要なため、広帯域な光信号の切り換えが可能です。
- *3 トーションバー
-
回転ミラーを支える棒状の部分をいいます。ミラーに力が加わると、トーションバーが変形してミラーが動きます。
- *4 SOI基板
-
SOIはSilicon on insulatorの略で、2枚のシリコン基板を薄い絶縁層を介して貼りあわせた基板です。ここでは上のシリコンの部分にミラー側の櫛歯、下のシリコンの部分に枠につながる櫛歯を形成し、静電力で枠側の櫛歯にミラー側の櫛歯を引き込むことでミラーを回転させています。
以 上
プレスリリースに記載された製品の価格、仕様、サービス内容、お問い合わせ先などは、発表日現在のものです。その後予告なしに変更されることがあります。あらかじめご了承ください。ご不明な場合は、富士通お客様総合センターにお問い合わせください。
|