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[ PRESS RELEASE ] 2002-0149
平成14年6月17日
株式会社富士通研究所

高速・低消費電力動作を可能とする
高移動度シリコンゲルマニウムMOSトランジスタを開発


株式会社富士通研究所(社長:藤崎道雄、本社:川崎市)は、トランジスタのチャネル領域にシリコンゲルマニウムを採用し、さらに、チャネル方向を特定方向(<100>方向)にすることで、高速・低消費電力動作可能なp型MOSトランジスタを開発しました。 今回開発したp型MOSトランジスタでは、キャリア移動度(*1)が従来のp型MOSトランジスタに比べ約1.5倍と大幅に向上しました。本p型MOSトランジスタを用いれば、携帯電話やノートパソコンなどの高速化および低消費電力化に貢献できるものと期待されます。
なお、本技術の詳細は、6月11日からハワイで開催された2002 SYMPOSIUM on VLSI TECHNOLOGYにおいて発表いたしました。

【開発の背景】

近年、情報機器の高速大容量化、モバイル化が進んでおり、MOSトランジスタの高速・低消費電力化が望まれています。これまで素子の微細化により特性改善が図られてきましたが、近い将来、素子微細化は限界にくると予想されます。そこでチャネル領域にひずみを持たせたシリコンやシリコンゲルマニウム等を用いて電子や正孔を高移動度化し、高速・低消費電力化をねらう技術が注目されています。しかし、ひずみシリコンは素子構造が複雑で結晶欠陥が多いという問題、また、ひずみシリコンゲルマニウム(*2)は、素子構造は単純で結晶欠陥も少ないが、移動度改善効果が不十分であるという問題がありました。

【開発した技術】

トランジスタのチャネルに結晶欠陥の少ないひずみシリコンゲルマニウム(図1)を用い、さらにチャネル方向を<100>方向に設定することで、高移動度シリコンゲルマニウムp型MOSトランジスタ(図2)(*3)の開発に成功しました。本技術は、ひずみシリコンゲルマニウムの<100>方向の移動度が、他の方向と比べて大幅に向上するとの理論予測をたて、さらに低温化プロセス技術、シリコンゲルマニウム結晶成長技術等を組み合わせることにより実現しました。
開発したp型MOSトランジスタの特長は、次の通りです。

  1. 高キャリア移動度
    ひずみ量に依存するゲルマニウム濃度が20%と低い条件でも、チャネル方位を通常の方向(<110>方向)から45度傾けた<100>方向に設定することで、従来のシリコンp型MOSトランジスタと比べキャリア(正孔)移動度が1.5倍と大幅に向上しました(図3)

  2. 低寄生抵抗
    開発したp型MOSトランジスタでは、トランジスタの特性を劣化させる原因となるソース・ドレイン領域の寄生抵抗(*4)も従来のp型MOSトランジスタに比べて30%程度と大幅に低減できます。

  3. 低欠陥密度
    本素子では低ゲルマニウム濃度でも十分に移動度を向上させることができるため、ゲルマニウム濃度の増加とともに増大する結晶欠陥の発生を極限まで抑えることが可能です。

本素子は、従来のトランジスタ構造に薄いシリコンゲルマニウム層を加えるという小さい変更だけで、現在主流となっているCMOS回路(*5)への適用が可能です。当社の試算によると、本技術を0.1ミクロンメートル世代のデバイスに適用することで、さらに30%程度の高速化及び低消費電力化が可能になります。


【用語解説または注釈】

*1 移動度
低電界では、キャリア(電子あるいは正孔)の平均走行速度は電界に比例して増加しますが、この比例係数のことを移動度と呼び、低電圧動作時の電流値の指標となります。

*2 ひずみシリコンゲルマニウム
シリコンより原子サイズの大きいゲルマニウムを含むシリコンゲルマニウムの薄膜をシリコン基板上に成長させますと、シリコンゲルマニウムの結晶が無理にシリコン基板の格子定数に合うように圧縮され、ひずみを持ちます。このひずみをもつシリコンゲルマニウムのことをひずみシリコンゲルマニウムと呼びます。

*3 シリコンゲルマニウムp型MOSトランジスタ
シリコンゲルマニウムをトランジスタのチャネルに用いた、正孔による電流を駆動できるMOSトランジスタのことです。正孔が従来のシリコンp型MOSトランジスタに比べ動きやすい、すなわち、正孔移動度が大きいという特徴があり、同サイズのシリコンp型MOSトランジスタと比べて大電流を得られるという利点があります。

*4 寄生抵抗
MOSトランジスタのソース領域、ドレイン領域に寄生する抵抗のことで、駆動電流を低減させ、高速・低消費電力動作を阻害する要因になります。

*5 CMOS回路
p型MOSトランジスタとn型MOSトランジスタを組み合わせて形成する基本回路で、集積回路に広く使われています。


(クリックすると拡大表示されます)
図1
ひずみシリコンゲルマニウム構造
図2
シリコンゲルマニウムMOSトランジスタ断面
図3
シリコン基板上のトランジスタチャネル方位

以 上


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