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1998-0252
平成10年12月7日
富士通株式会社

InAs量子ドットを用いた光メモリの2波長書き込みホールバーニングの実証

富士通株式会社は、半導体量子ドットの集合体からなる光メモリ素子を試作し、波長の異なる2種類の光信号による書き込み動作の観測に成功、量子ドットの光波長多重メモリへの応用可能性を実証しました。今回の結果は、量子ドットを用いた高密度、高機能の光メモリへの実現に道を開くものです。
なお、本研究は通産省産業科学技術研究開発制度の一環としてNEDOからFEDを通じて委託された「量子化機能素子の研究開発」の成果であります。

[開発の背景]

光通信の高速大容量化にともない、扱われる情報量は年々増加しています。それによって、記憶媒体の大容量化やビット当たり単価の低減は重要な課題になってきており、1Tb/平方インチの記憶媒体実現を狙った各種研究が進んでいます。また、光交換機のバッファメモリのように小型・高機能の光メモリが要求される分野も重要になってきております。
このような要求に対し、量子ドットの光非線形性を利用することにより多くの可能性を提供します。その一つの方法として、当社は光を用いた波長多重量子メモリを提案しております。これはホールバーニングという現象を利用し、一箇所に異なる波長での情報を重ね書きすることにより、飛躍的に記憶容量を増大させようとするものであります。 波長多重メモリのアイデアは1970年代に有機色素から始まり、希土類元素添加ガラスおよび結晶、ハロゲン化銅添加ガラスなどに発展しています。一方、半導体量子ドットをもちいると、人工的に波長多重度や、波長を設計することができるとともに、電子デバイスとの融合も簡便となり、小型・高密度・高機能の光メモリが実現する可能性があります。
[開発した内容]
半導体量子ドットを用いた波長多重メモリを作製し、波長の異なる2つの書き込み光による複数のホールバーニングを、世界で初めて観測しました。この素子は、ダイオードの中に結晶成長技術により量子ドットを埋め込んだ構造をしており、量子ドットの光吸収に対応する複数の波長での情報の書き込みを可能にするものです。
量子ドットは10〜20nm程度の大きさを持った巨大な原子に相当し、ドブロイ波長とサイズが同程度であるため状態密度がデルタ関数的形状を示します。この状態密度の離散性により、量子準位以外のエネルギーでは光の吸収は起こりませんから、光の波長による選択励起が可能です。また、量子ドット一つの吸収線幅、あるいは均一幅は、この状態密度の形状を反映し、0.1meV以下であります。しかし、量子ドットの集合体と見ると、サイズ揺らぎによる大きな不均一幅(〜100meV)を示します。
したがって、わずかに異なる波長で異なる量子ドットの光吸収が起こり、波長を次々と変えていくだけで情報が書き込み光の集光スポットに重ね書きされるわけです(波長多重性)。波長多重度は"不均一幅/均一幅"で表わされ1000程度が期待できるため、量子ドットを用いたテラビット(Tbit, 1012)級メモリへの可能性さえ秘めています。
具体的には、自己形成InAs量子ドットをpinダイオードに埋め込み、量子ドットの吸収帯に書き込み光である固定波長レーザ(YLFおよびYAGレーザ)と読み取り光である波長可変レーザ(チタンサファイアレーザ)を同時に照射し、その読み取り光電流スペクトルを観測しました。その結果、1つの書き込み光波長のところに吸収飽和によるホールバーニング現象を観測しました(InAs量子ドットで世界初)。
均一幅は0.025 meV以下であり、不均一幅は83meVで、波長多重度は3000以上に相当ます。また、均一幅は温度とともに広がりますが、80Kまでホール形成が確認されしました(同世界初)。これは、量子ドットの波長多重光メモリの高温動作化の可能性を示唆するものであります。
本研究は12月6日からサンフランシスコ・ヒルトンホテルで開催されているIEDM'98(1998 International Electron Devices Meeting)で発表されます。

以上


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