平成8年5月8日 富士通株式会社 |
(株)富士通研究所(本社:神奈川県川崎市中原区、社長:佐藤 繁)はこのほど、ガラス基板上に低温プロセスによる新しいポリシリコン薄膜トランジスタ構造を開発し、低温ポリシリコン技術(*1)では世界初の超高精細なSXGA(*2)(1280x1024画素)のTFT(*3)(薄膜トランジスタ)液晶ディスプレイ(LCD)の試作に成功しました。
本LCDパネルは、3.2型(対角8cm)の表示部に130万画素(1280×1024)からなる超高精細画面(画素ピッチ:50um)を実現すると同時に、周辺部に駆動回路を一体化しています。 また、従来の低温ポリシリコンTFTパネルに比べて2倍の明るさ(開口率60%)を達成しています。
本技術は、パソコン(PC)・エンジニアリングワークステーション(EWS)用の高輝度・低消費電力データプロジェクタから直視型の携帯情報端末用の高精細画面にも対応できます。当社では、今回の成果により、低温ポリシリコン技術が実用化段階に大きく 前進したものと考えております。
本件は、5月12日から17日まで、米国サンディエゴで開催されるSID '96 (Societyfor Information Display '96)において発表する予定です。
低温ポリシリコンTFT技術は、アモルファスシリコンTFT技術に比べ2桁以上高い移動度を持つTFTを、量産性に富む通常のガラス基板上に形成できるため、ディスプレイの画素の高精細・高密度化とともに、周辺回路をディスプレイ上に一体化する「システム・オン・LCD」を実現できる技術です。
「システム・オン・LCD」の実現は、ディスプレイの組立生産や検査工程の削減によるコストダウンや高信頼化を可能にします。また、これまでにない高密度・多機能化やコンパクトな液晶応用商品の創出が可能となり、これまでの単なるディスプレイから機能を持ったディスプレイへと進化する道を切り拓くものと期待されています。
従来、低温ポリシリコンTFTは、600度以下でポリシリコン半導体やゲート絶縁膜界面を形成するために、1000度以上の高温で結晶化やゲート絶縁膜の作製を行う高温ポリシリコンTFTに比べて、TFT特性の安定性に課題がありました。
今回開発した低温ポリシリコンTFTは、独自の500度前後の低温プロセスでポリシリコンTFTを作製するもので、以下の新技術により試作に成功いたしました。
・表示部 : 3.2型(対角8cm) ・画素数 : 1280×1024 ・画素サイズ : 50um×50um ・コントラスト比: 100以上 ・開口率 : 60%
*1 低温ポリシリコン技術
現在実用化されている高温ポリシリコン技術では1000度以上の高温プロセスを用いており石英基板を使う必要があるのに対し, プロセスを600度以下の低温で通常 のガラス基板上に高移動度のポリシリコンTFTを形成できるようにしたもの。
*2 SXGA: Super eXtended Graphics Array
VGA(Video Graphics Array : 640x480),XGA(eXtended Graphic Array :1024x768)などの表示仕様の中で,最も表示容量の大きな1280x1024ドット仕様のものの呼称。
*3 TFT: Thin Film Transistor
薄膜トランジスタの略。
*4 遮光膜(BM) :Black Matrix
マトリクス状に配列された画素電極部以外の部分の光を遮るための膜(ブラックマトリクス)。
*5 SAG TFT: Self Alligned offset Gate TFT
自己整合型オフセットゲート構造の略。TFTのソース・ドレイン電極部の高濃度 n+領域をイオンドーピング法で形成すると同時に, ポリシリコンチャネル部と離す(オフセット)ゲート構造。トランジスタの耐圧・リーク特性が安定する。
*6 陽極酸化法
ゲート電極(Al)の一部を陽極にして酸化膜を形成するプロセス技術。オフセット長さを精度良く製作できる。