平成8年8月9日 株式会社富士通研究所 富士通株式会社 |
株式会社富士通研究所(社長:佐藤 繁,本社:川崎市)と富士通株式会社は、このほど、廃棄後,土の中の微生物によって分解されるエコロジーマテリアルを用いたLSIトレイ(260 x 165mm 写真1)を世界で初めて開発しました。
廃棄物の削減、特に廃棄後も半永久的に自然界に残留するプラスチック廃棄物の削減が世界的な課題になっています。富士通では、大量に使用される包装材料を中心に脱プラスチック化を推進しており、パソコンなどの電子機器の梱包については発泡スチロールから、ダンボール紙への転換を進めています。 しかし、LSI部品の輸送に使用されるLSIトレイについては、高い寸法精度と剛性が要求され、また静電破壊防止のために導電性が必要なことから、脱プラスチック化が困難であります(注1)。そこで、紙と同様、廃棄後に自然界の微生物によって水と二酸化炭素に分解されるプラスチック(生分解性プラスチック)に着目し、これをベースにしたエコロジーマテリアルを用いたLSIトレイの開発を進めてまいりました。
廃棄物問題の関心の高まりとともに、土や水の中の微生物が作り出す酵素によって分解されるプラスチックの開発、製品化が活発化し、農業用フィルムや釣糸、漁網など自然界に置き去りにされることの多い農林水産分野の用途を中心に需要が拡大しつつあります。
しかし、この素材をLSIトレイに適用するためには、強度や精度の確保、導電性の付与が必須であり、こうした特性を満足できる材料や成形技術の開発が必要です。
富士通研究所では、化学合成による低コスト化が期待できる脂肪族ポリエステル系の樹脂(市販品)をベースに各種添加剤の研究を行い、微生物による分解が可能で、しかもLSIトレイで要求される導電性や強度(表1)を確保できる組成物を開発しました。導電性付加のためには、一般に炭素粉末が用いられますが、この炭素粉末によって微生物の繁殖が阻害されることがわかりました。そこで、炭素粉末の種類や量が微生物の繁殖に及ぼす影響を検討し、分解性とトレイに要求される導電性を両立できるエコロジーマテリアルを開発しました。微生物による分解性は、図1に示すように河川水を用いた試験で確認しています(注2)。微生物の繁殖にともない分解が始まり、表面が粗くなっていきます(写真2)。さらに、表面積の増加に伴い、分解が加速されていきます。
また、炭素粉末の混合により樹脂の流動性が低下し、これを補うために成形温度を上げると樹脂が熱劣化することがわかりました。 この問題については、組成物の溶融時の粘度や弾性率と成形精度との関連を分析し、 必要最小限の加熱で寸法精度が確保できる成形条件を見出し、解決しました。なお、寸法の経時変化、高温・高湿度下の特性変化についても、問題ないことを確認しています。
本樹脂は、埋め立て処理に加え、焼却処理においても以下のように環境に対する負荷が少ないという特徴があります。
本LSIトレイについては、今秋にセラミックパッケージLSIの一部品種に適用を開始する 予定です。なお、今回開発した材料は軟化温度が110度と低く用途が限定されるため、今後、 耐熱性の向上を図り、 適用範囲を拡大していく所存です。また、 業界団体等を通じて、LSIトレイへの本材料の適用を呼びかけていきたいと考えています。
(注1) | LSIトレイの使用量:全世界で、約1万トン/年使用 |
(注2) | 本試験は微生物による分解を確認するためのものであり、河川への投棄を推奨するものではありません。 なお、シュレッダーダストにして土に埋めた場合は、その土の微生物の状況によりますが、数年程度で土と同化してしまうものと見積もられます。 |
(注3) | 燃焼エネルギー 開発材料 21kJ/g,従来材料 40kJ/g,木材 18kJ/g |
処理前 |
175日放置 |